UXデザインを進めるためのステークホルダー分析と効果的な巻き込み方
UXデザインをプロダクト開発に効果的に組み込んでいくためには、ユーザーだけでなく、プロダクトに関わる多様な関係者(ステークホルダー)の理解と協力が不可欠です。特に、開発チームだけでなく、営業、マーケティング、カスタマーサポート、経営層など、それぞれの立場からプロダクトに期待することや懸念事項は異なります。
こうした多様なステークホルダーの状況を把握し、適切にコミュニケーションを取り、プロジェクトへの協力を得ることは、UXデザインをスムーズに進める上で重要な鍵となります。本記事では、UXデザインを進めるためのステークホルダー分析の具体的なステップと、分析結果を活かした効果的な巻き込み方について解説します。
UXデザインにおけるステークホルダー分析の重要性
UXデザインは、プロダクトやサービスを通じてユーザーに価値ある体験を提供することを目指しますが、その実現には多くの人の関わりが必要です。ステークホルダー分析を行う目的は主に以下の点にあります。
- 関係者の特定と可視化: プロジェクトに関わる全ての人を明確にし、その役割や立場を理解する。
- 関心・影響度の把握: 各ステークホルダーがプロジェクトに対してどのような関心を持ち、どれだけの影響力があるかを把握する。
- 期待や懸念事項の理解: ステークホルダーがUXデザインの取り組みに対して何を期待し、どのような懸念を抱いているかを明らかにする。
- 適切なコミュニケーション戦略の策定: 各ステークホルダーに合わせた情報共有や協力依頼の方法を検討する。
これらの情報を事前に把握しておくことで、関係部署との不要な衝突を避け、必要な協力をスムーズに得られるようになります。これは、特に多様なチームや部署と連携しながらプロダクト開発を進める上で非常に重要です。
ステークホルダー分析の具体的なステップ
ステークホルダー分析は、特別なツールを使わなくても、一般的なオフィスソフト(表計算ソフトやプレゼンテーションツールなど)を活用して行うことができます。
ステップ1: 関係者の洗い出し
まずは、プロジェクトに関わる可能性のある全ての人やグループをリストアップします。部署、役職、役割などを切り口に考えると網羅しやすくなります。
- 例:
- 開発チーム(エンジニア、デザイナー、QAエンジニア)
- プロダクトマネージャー
- マーケティング部門
- 営業部門
- カスタマーサポート部門
- 法務部門
- 経営層
- 外部パートナー企業 など
ステップ2: 関係性と影響度のマッピング
洗い出した関係者について、「プロジェクトへの関心度」と「プロジェクトへの影響度」という2つの軸で評価し、マッピングします。これにより、誰に重点的にコミュニケーションを取るべきか、誰の協力が不可欠かが明確になります。
よく用いられるのが、以下の4象限にステークホルダーを分類するマトリクスです。
- 関心度高 x 影響度高: 最も重要なステークホルダー。積極的に関与を求め、継続的なコミュニケーションが必要です。
- 関心度高 x 影響度低: プロジェクトの成果に関心は高いが、意思決定への直接的な影響力は低いステークホルダー。情報提供を密に行い、関心を維持してもらうことが重要です。
- 関心度低 x 影響度高: プロジェクトへの関心は低いが、大きな影響力を持つステークホルダー。プロジェクトの進行を妨げないよう、最低限の情報提供と状況に応じた関与依頼が必要です。
- 関心度低 x 影響度低: 関与の優先度は低いステークホルダー。一般的な情報共有で十分な場合が多いです。
このマッピングは、表計算ソフトでリストを作成し、「関心度」「影響度」の列を追加して評価を記入したり、プレゼンテーションツールで簡単な図を作成したりして行うことができます。
ステップ3: 各ステークホルダーの期待・懸念事項の特定
それぞれのステークホルダーが、このUXデザインの取り組みや、その結果生まれるプロダクトに対して何を期待し、どのような懸念を抱いているかを掘り下げて考えます。これは、過去のコミュニケーションや間接的な情報から推測することもできますし、可能であれば簡単なヒアリングを行うことも有効です。
- 例:
- 経営層: プロダクトの成功、売上向上、ブランドイメージ向上
- 営業部門: 顧客への提案しやすさ、競合優位性、顧客からの要望が反映されるか
- 開発チーム: 仕様の明確さ、開発効率、技術的な実現可能性
- カスタマーサポート: 問い合わせの削減、FAQの充実、ユーザーの使いやすさ
これらの情報は、ステップ2のマッピングと合わせて記録しておくと便利です。
分析結果を活かした効果的な巻き込み方
ステークホルダー分析の結果は、単に状況を把握するだけでなく、今後のコミュニケーション戦略やプロジェクトの進め方を考える上で活用します。
各ステークホルダーに合わせたコミュニケーション戦略
分析で明らかになった関心度、影響度、期待、懸念事項に基づき、それぞれのステークホルダーに対してどのようにアプローチするかを検討します。
- 情報提供の頻度と内容を変える: 関心度・影響度が高いステークホルダーには詳細な情報を頻繁に、低いステークホルダーには要約された情報を適度に提供します。
- UXの価値を相手に合わせて伝える: なぜUXデザインが必要なのか、その取り組みによって何が得られるのかを、相手の関心事(売上、効率、顧客満足度など)に合わせて具体的に説明します。
- 参加を促す機会を設ける: 関心が高いステークホルダーには、ユーザーインタビューへの同席、ワークショップへの参加、プロトタイプのレビューなどを提案し、直接プロジェクトに関わる機会を提供します。
- 懸念事項への対応: 懸念事項が明らかになった場合は、それに対してどのように対応するかを検討し、適切なタイミングで伝えることで信頼関係を築きます。
オフィスツールを活用した情報共有
分析結果やUXデザインの進捗状況をステークホルダーと共有する際にも、オフィスツールが役立ちます。
- プレゼンテーションツール: 分析結果のマトリクスや、UXリサーチで見つかった重要なインサイト、プロトタイプのデモなどを分かりやすくまとめて共有会議で発表する。
- ドキュメントツール: 分析結果の詳細や、各ステークホルダーへの対応計画などを文書にまとめ、共有フォルダなどでアクセス可能にする。
- 表計算ツール: ステークホルダーリストと分析結果を一覧できる形で管理する。
- プロジェクト管理ツール: プロジェクトの進捗状況とともに、UXデザインの取り組みについても定期的に情報を更新し、関係者がいつでも確認できるようにする。
実務における注意点
- 分析は一度きりではない: プロジェクトの進行や状況の変化に応じて、ステークホルダーの関心や影響度は変化します。定期的に分析を見直し、情報を更新することが重要です。
- 全てのステークホルダーを完全に納得させるのは難しい: 全員がUXデザインの取り組みに熱心になるわけではありません。重要なのは、プロジェクトを推進するために必要な協力関係を築くこと、そして主要な意思決定者や協力者の理解を得ることです。
- 開発チームとの連携: ステークホルダーの中でも、共にプロダクトを作る開発チームとの連携は特に重要です。UXの視点やユーザーの声を開発プロセスにどう組み込むか、日常的なコミュニケーションを通じて協力体制を築く工夫が必要です。
まとめ
UXデザインを実務で推進するためには、ユーザー起点のアプローチと同時に、プロダクトに関わる多様なステークホルダーとの良好な関係構築が不可欠です。ステークホルダー分析を通じて関係者を可視化し、それぞれの関心や期待を理解することで、効果的なコミュニケーション戦略を立てることができます。
特別なデザインツールは必要ありません。本記事でご紹介したようなステップで、お手元のオフィスツールを活用しながらステークホルダー分析を実践し、関係者をプロジェクトに巻き込むことで、UXデザインの取り組みをより力強く進めることができるでしょう。