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プロダクトの使いやすさを測るユーザーテスト:オフィスツールで手軽に実施する手順

Tags: ユーザーテスト, ユーザビリティテスト, UXデザイン, プロダクト開発, デザイン思考

はじめに

プロダクト開発において、ユーザーが実際にどのように製品やサービスを使うのかを理解することは非常に重要です。企画や設計の段階でユーザーのニーズを深く理解しようと努めても、実際に形になったものをユーザーに使ってもらうことで、初めて気づく課題が多くあります。

特に、プロダクトの「使いやすさ」に関する課題は、開発者やデザイナーの視点だけでは見落としてしまいがちです。操作方法が分かりにくい、目的の機能にたどり着けない、期待した結果が得られないなど、様々な要因がユーザー体験を損なう可能性があります。

このような使いやすさの課題を発見し、改善に繋げるための有効な手段の一つに「ユーザーテスト」があります。しかし、ユーザーテストと聞くと、「専門的な知識やツールが必要なのではないか」「大掛かりな準備が必要なのではないか」と感じ、実施のハードルが高いと感じている方もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、特別なデザインツールや専門的な設備がなくても、普段使い慣れているオフィスソフトを活用して手軽にユーザーテストを実施するための具体的な手順をご紹介します。プロダクト開発に携わる皆様が、ユーザーの真の課題を理解し、より良いプロダクト開発を進めるための一歩となることを目指します。

ユーザーテストとは何か

ユーザーテスト(ユーザビリティテストとも呼ばれます)は、開発中のプロダクトや既存のプロダクトを実際のユーザーに使ってもらい、その行動や発言を観察・記録することで、使いやすさに関する課題を発見するための調査手法です。

主な目的は以下の通りです。

ユーザーテストは、開発の初期段階(プロトタイプ)からリリース後の機能改善まで、様々なフェーズで実施することが可能です。少数のユーザーからでも多くの有益な情報を得られるため、継続的に実施することでプロダクトの品質向上に繋げることができます。

オフィスツールで始めるユーザーテストの実践ステップ

特別なツールがなくても、普段お使いのオフィスソフト(Word, Excel, PowerPoint, Google ドキュメント, Google スプレッドシート, Google スライドなど)を活用すれば、ユーザーテストを実施するための基本的な準備と記録を行うことができます。

ステップ1:テストの目的とタスクの設定

ユーザーテストを始める前に、まず「なぜこのテストを実施するのか」という目的を明確にします。特定の機能の使いやすさを評価したいのか、ユーザーが目的を達成できるかを確認したいのかなど、明らかにしたい問いを設定します。

目的が定まったら、被験者であるユーザーに実際に操作してもらう「タスク」を設定します。タスクは具体的で、ユーザーがプロダクトを使って達成したいであろう行動に基づいたものが望ましいです。

オフィスツールでの準備: WordやGoogleドキュメントなどの文書作成ソフトを使って、以下の項目を含む「テスト計画書」を作成します。 * テストの目的 * 評価したいプロダクトの範囲 * 設定するタスクリスト(タスクごとに、ユーザーに依頼する内容、期待される行動、成功の基準などを記述) * 被験者の条件 * テストのスケジュール

ステップ2:被験者の選定

テストの目的に合ったユーザー像に近い人を選定します。必ずしも多くの人数は必要ありません。一般的には、5人程度の被験者で、使いやすさに関する多くの重要な課題を発見できると言われています。

社内の関係者ではない、実際にプロダクトを利用する可能性のあるユーザーに近い属性の人に協力を依頼します。友人や知人、あるいはターゲットユーザーに該当する社内の別部署のメンバーなどに声をかけてみることも一つの方法です。

ステップ3:テスト環境の準備と観察シートの作成

ユーザーテストを実施する場所を準備します。静かで、被験者がリラックスして操作に集中できる環境が理想です。被験者が操作するPCやスマートフォン、テストするプロダクト(ウェブサイト、アプリケーション、プロトタイプなど)を用意します。

ユーザーの操作画面や音声を記録できるツール(PCの画面録画機能、スマートフォンの録画・録音アプリなど、特別なものでなくても構いません)があると、後でじっくり振り返る際に役立ちます。ただし、記録する際は必ず被験者の許可を得てください。

重要なのは、テスト中にユーザーの行動や発言、気づきを記録するための「観察シート」です。

オフィスツールでの準備: ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトを使って、以下の項目を含む「観察シート」を作成します。 * 被験者ID/名前(匿名でも可) * テスト日時 * タスク番号 * タスク内容 * ユーザーの行動(具体的に何を操作したか) * ユーザーの発言(独り言、質問など) * 観察者の気づき(ユーザーが迷った点、予期しない行動など) * タスクの成否(成功したか、できなかったか、時間がかかったかなど)

この観察シートを使って、テスト中にリアルタイムで記録していきます。記録係と進行役に分かれるとスムーズに進めやすいですが、一人で実施する場合は、重要なポイントだけでもメモし、後で録画を見返しながら詳細を記録することも可能です。

ステップ4:テストの実施

いよいよユーザーテストを実施します。テストは、被験者と一対一、または観察者数名で行います。

  1. アイスブレイクと説明: まずは被験者にリラックスしてもらうために軽い会話をします。次に、テストの目的(プロダクトの評価であり、被験者の能力を測るものではないこと)、テストの流れ、思考発話法(頭の中で考えていることを声に出してもらうこと)への協力のお願いなどを丁寧に説明します。記録や録画を行う場合は、この時点で必ず許可を得ます。
  2. タスクの依頼: ステップ1で設定したタスクを一つずつ依頼します。タスクの説明は簡潔に行い、具体的な操作方法のヒントは与えないように注意します。
  3. 観察と記録: 被験者がタスクを実行する様子を注意深く観察し、観察シートに記録していきます。思考発話が滞っているようであれば、「今、何を考えていますか?」など、自然な形で問いかけを促します。ユーザーが困っていても、すぐに助けず、まずは様子を見守ることが重要です。
  4. 質疑応答: 全てのタスクが終了した後、テスト全体を通しての感想や、特定の操作についてどう感じたかなどをインタビューします。

ステップ5:結果の記録と整理

テスト終了後、観察シートに記録した内容や、録画・録音を見返して、情報を整理・補完します。特に、ユーザーがどのタスクで、どのように困っていたのか、どのような発言をしていたのかを具体的に記述します。

オフィスツールでの整理: 観察シート(ExcelやGoogleスプレッドシート)に記録した情報を、課題ごとに整理していきます。例えば、タスクごと、あるいはユーザーが困った操作ごとに、観察された事実とそこから推測される課題をまとめます。

さらに、PowerPointやGoogleスライドを使って、テストで得られた重要な気づきや、特に印象的なユーザーの発言、課題が起こっている画面などをまとめた報告資料を作成すると、チームメンバーと共有しやすくなります。画面のスクリーンショットなどを活用しましょう。

ステップ6:課題の特定と分析

整理した情報から、使いやすさに関する具体的な課題を特定します。観察シートや報告資料をチームメンバーと共有し、議論することで、一人では気づけなかった課題や、課題の根本原因が見えてくることがあります。

課題を構造的に理解するために、簡単なアフィニティダイアグラム(KJ法)のような手法を用いることも有効です。観察で得られた個々の「事実」やそこから考えられる「課題」を、ExcelやGoogleスプレッドシートのセル、あるいはPowerPoint/Googleスライドの図形機能やテキストボックス、オンラインのホワイトボードツールなどで一つ一つ書き出し、類似するものをグルーピングしていきます。これにより、どのような種類の課題が多いのか、特に重要な課題は何かなどが視覚的に把握しやすくなります。

特定した課題に対して、「なぜその課題が起きるのか」を深掘りし、その課題がユーザー体験にどのような影響を与えているのかを分析します。

実務での活用と次のアクション

ユーザーテストで特定された課題は、プロダクト改善のための重要なインサイトとなります。全ての課題を一度に解決することは難しいため、影響度や改善の容易さなどを考慮して優先順位をつけ、開発バックログに組み込んでいきます。

テスト結果を開発チームや関係者に具体的にフィードバックする際は、単に「使いにくい」と伝えるのではなく、「〇〇というタスクで、被験者の△△さんが□□のように操作しようとして、××の箇所で迷っていた。その原因は〜と考えられ、この結果、ユーザーはタスクを完了できなかった(あるいは時間がかかった)」のように、観察された事実に基づき、具体的な状況を伝えることが重要です。可能であれば、録画の一部を共有することも有効です。

まずは小さな規模で、簡単なプロトタイプや特定の機能に絞ってユーザーテストを実施してみることをお勧めします。一度経験すれば、次のテストはよりスムーズに進められるはずです。継続的にユーザーの生の声に触れる機会を持つことで、ユーザー起点でのプロダクト開発がより自然に行えるようになります。

まとめ

本記事では、特別なツールを使わずオフィスソフトを活用してユーザーテストを実施するための具体的なステップをご紹介しました。

ユーザーテストは、プロダクトの使いやすさに関する隠れた課題を発見し、ユーザー理解を深めるための非常に強力な手法です。専門的な知識やツールがなくても、テストの目的を明確にし、タスクを設定し、ユーザーの行動を丁寧に観察・記録・分析することで、多くの価値あるインサイトを得ることができます。

ぜひ本記事を参考に、皆様のプロダクト開発においてユーザーテストを実践してみてください。ユーザーの視点を取り入れることで、よりユーザーに喜ばれるプロダクトへと成長させていくことができるでしょう。