真のニーズを把握するユーザーインタビュー:非デザイナーでもできる実践ステップ
プロダクト開発において、ユーザーの真のニーズを理解することは成功の鍵となります。しかし、「ユーザーのニーズを把握する」と一口に言っても、どのように進めれば良いのか、特に専門的なデザインやリサーチの経験がない場合、その第一歩に迷うこともあるかもしれません。
この記事では、ユーザーの真のニーズを引き出すための基本的な手法である「ユーザーインタビュー」に焦点を当てます。特別なデザインツールや専門知識がなくても、一般的なオフィスツールを活用しながら実践できる具体的なステップをご紹介します。
ユーザーインタビューの目的とメリット
ユーザーインタビューは、想定するユーザーと直接対話することで、彼らの経験、考え、感情、そして真のニーズや課題を深く理解するための手法です。アンケートや定量データだけでは見えてこない、背景にある「なぜ」や、ユーザー自身も気づいていないインサイトを得ることができます。
主な目的は以下の通りです。
- ユーザー像の具体化: ペルソナの解像度を高めたり、漠然としたユーザー像をより具体的に理解したりできます。
- ニーズ・課題の発見: ユーザーが現在抱えている課題や、まだ満たされていない潜在的なニーズを発見できます。
- 仮説の検証: プロダクトや機能に関する仮説が、実際のユーザーの状況と合っているかを確認できます。
- 共感の醸成: 開発チーム全体がユーザーへの共感を深め、ユーザー中心の意思決定を促進します。
これらの目的を達成することで、開発するプロダクトがユーザーにとって真に価値のあるものになる可能性を高めることができます。
非デザイナーでもできるユーザーインタビューの具体的な実践ステップ
ここでは、ユーザーインタビューを企画から実施、分析・活用まで進めるための具体的なステップをご紹介します。特別なツールは不要で、一般的なオフィスツール(ドキュメント作成、スプレッドシートなど)やオンライン会議ツールがあれば十分です。
ステップ1:インタビューの目的とターゲットを明確にする
まず、なぜユーザーインタビューを行うのか、その目的を明確に設定します。例えば、「新しい機能の利用状況と課題を把握したい」「特定のタスクにおけるユーザーの行動パターンを知りたい」「競合サービスからの乗り換え理由を探りたい」などです。目的が曖昧だと、質問内容や対象者選定がブレてしまいます。
次に、インタビューしたいユーザーの条件を定めます。これはプロダクトの現在の利用者、または想定する利用者のうち、目的に合致する層です。年齢、性別といったデモグラフィック属性だけでなく、プロダクトとの関わり方(利用頻度、利用目的など)や特定の経験・課題を持つユーザーなど、目的に応じて詳細な条件を設定します。
ステップ2:インタビュー対象者を選定・募集する
目的とターゲットが決まったら、条件に合う対象者を選定・募集します。社内の協力者、既存の顧客リスト、ソーシャルメディア、または外部の調査協力者募集サービスなどが考えられます。数としては、一般的に5人程度のインタビューで多くの主要なパターンが見えてくると言われています。ただし、これはあくまで目安であり、目的に応じて調整が必要です。
対象者にインタビューへの協力をお願いする際には、目的、所要時間、インタビュー形式(オンラインか対面か)、謝礼の有無などを丁寧に伝えます。
ステップ3:インタビューガイドを作成する
効果的なインタビューを行うためには、事前に「インタビューガイド」を作成することが非常に重要です。インタビューガイドは、インタビューの流れと質問事項をまとめたものです。オフィスツールのドキュメント作成機能などで作成できます。
インタビューガイド作成のポイント:
- 構成: アイスブレイク(導入)→本題(目的に関する質問)→まとめ(補足質問、締め)という流れが一般的です。
- 質問の種類: 事実を尋ねる質問だけでなく、「なぜ」「どのように」「その時どう感じましたか」といった、ユーザーの考えや感情、背景にある理由を引き出すオープンクエスチョンを多用します。「はい/いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンは、事実確認などに限定的に使用します。
- 具体的な質問: 抽象的な質問ではなく、ユーザーの具体的な経験や行動について尋ねるようにします。「もし〜だったらどうしますか」のような仮説的な質問も有効な場合があります。
- 中立性: 質問が特定の回答に誘導するようなニュアンスを含まないよう注意します。
- 網羅性: 目的達成に必要な情報を網羅できるよう、質問項目を洗い出します。ただし、インタビューは会話なので、ガイドに固執しすぎず、話の流れに合わせて柔軟に対応することも大切です。
ステップ4:インタビューを実施する
準備が整ったら、いよいよインタビューを実施します。オンライン会議ツールを使用する場合も、対面の場合も、話しやすい雰囲気作りが重要です。
実施時のポイント:
- アイスブレイク: 開始直後は軽い雑談などで緊張をほぐします。
- 目的と時間の共有: インタビューの目的、大まかな流れ、所要時間を改めて伝え、安心して話してもらえるようにします。
- 録音の許可: 可能であれば、ユーザーの許可を得て音声を録音します。後で内容を正確に振り返るために非常に役立ちます。録音が難しい場合は、複数人で担当を分け、一人が質問、もう一人がメモを取る体制を整えます。
- 傾聴と深掘り: ユーザーの話を注意深く聞き、相槌やアイコンタクトで聞いていることを示します。気になる発言や曖昧な点があれば、「それについてもう少し詳しく教えていただけますか」「それは具体的にどういう状況ですか」などと深掘りします。
- 沈黙を恐れない: ユーザーが考えている間の沈黙を焦って埋めようとせず、待つことも重要です。
- 時間管理: 設定した時間内に終わるように、意識しながら進めます。
ステップ5:インタビュー結果を整理・分析する
インタビューを実施したら、得られた情報を整理し、分析してインサイトを抽出します。
整理・分析のポイント:
- 文字起こし: 録音した場合は、文字起こしサービスを利用するか、自身で主要部分だけでも文字起こしします。
- 情報の集約: 各インタビューで得られた発言、行動、感情などの情報を一箇所に集約します。スプレッドシートやドキュメントにまとめることができます。
- インサイトの抽出: 集約した情報から、ユーザーが抱える課題、ニーズ、行動の背景にある理由など、本質的な発見(インサイト)を見つけ出します。ユーザーの言葉をそのまま引用することも有効です。
- グルーピング: 抽出したインサイトや発言を、似たもの同士でグループ化します。これはオフィスツールの図形描画機能を使ったり、デジタル付箋ツール(または実際の付箋)を使ったりすることで視覚的に行うと、全体像を把握しやすくなります。共通するパターンや重要な課題が見えてきます。
- 発見の構造化: グループ化して見えてきたパターンを、課題マップや簡単なレポートとして構造化します。これにより、チーム内で発見を共有しやすくなります。
ステップ6:発見をチームで共有し、開発に活かす
分析結果は、開発チーム全体で共有することが重要です。共有の場では、単に事実を羅列するだけでなく、ユーザーの生の声や具体的なエピソードを交えながら、発見されたインサイトとその背景にある「なぜ」を分かりやすく伝えます。
共有されたインサイトは、プロダクトの改善点の特定、新機能の企画、優先順位の決定など、その後の開発プロセスに活かされます。例えば、「ユーザーはAというタスクでXという課題を抱えている」というインサイトが得られたら、その課題を解決するための機能を検討するといった具合です。
まとめ
ユーザーインタビューは、特別なデザインスキルがなくても、目的と手順を理解すれば誰でも取り組める、ユーザーの真のニーズを理解するための強力な手法です。
プロダクト開発に携わる皆さんにとって、この手法を身につけることは、ユーザー中心のアプローチを実践し、より価値のあるプロダクトを生み出すための大きな一歩となるでしょう。まずは小さな規模で構いませんので、この記事でご紹介したステップを参考に、身近なユーザーに話を聞くことから始めてみてはいかがでしょうか。実践を重ねることで、きっとユーザーの隠れた声を聞き取る力が養われていくはずです。