ユーザーの声から真のニーズを見つける：オフィスツールで実践するアフィニティ図ワークショップ
ユーザーの生の声に隠された真のニーズを見つけ出す重要性
プロダクト開発において、ユーザーの真のニーズを理解することは成功の鍵となります。ユーザーインタビューや観察などを通して、私たちは多くの「生の声」や「行動の記録」といった定性データを集めることができます。しかし、これらのデータは断片的であり、ただ集めるだけではプロダクトの改善や新しい機能開発に直接結びつけることは難しいのが実状です。
集めた定性データをチームで共有し、そこから共通するパターンや隠された意味を見つけ出し、「ユーザーインサイト」として明確にすることが求められます。このプロセスを経ることで、なぜユーザーが特定の行動をとるのか、表面的な発言の裏にどのような感情や課題があるのかといった、プロダクト開発にとって本当に価値のある知見を得ることができるのです。
アフィニティ図（親和図法）がユーザーインサイト発見に有効な理由
ユーザーから得られた膨大な定性データを整理・分析する手法の一つに、「アフィニティ図（親和図法）」があります。これは、バラバラの情報を関連性の高いもの同士でグループ化し、構造化することで、データの全体像を把握し、潜在的な問題点やニーズを発見するための手法です。
アフィニティ図がUX起点デザイン、特にユーザーの生の声からインサイトを見つけるプロセスにおいて有効である理由はいくつかあります。
- データの客観的な整理: 個々の発言や観察事実を一つ一つの「カード」として扱うことで、主観を排し、客観的にデータを整理できます。
- チームでの共通理解: ワークショップ形式でチーム全員がデータに触れ、グループ化のプロセスを共有することで、ユーザー理解や課題認識における共通認識を醸成できます。
- 隠れたパターンの発見: 関連性の高い情報を集める過程で、個別の発言からは見えにくかったユーザーの行動パターン、思考プロセス、潜在的なニーズなどが浮かび上がってきます。
- 構造的な把握: グループ間の関係性などを可視化することで、ユーザーが抱える課題や状況の全体像を構造的に捉えることができます。
デザインツールに不慣れな方でも、アフィニティ図は紙と付箋、あるいは一般的なオフィスツールがあれば十分に実践可能です。チームでユーザー理解を深め、プロダクトの方向性を定める上で強力な助けとなるでしょう。
オフィスツールで実践するアフィニティ図ワークショップのステップ
ここでは、特別なデザインツールを使わず、一般的なオフィスツールを活用してチームでアフィニティ図を作成し、ユーザーインサイトを見つけ出すための具体的なワークショップ手順をご紹介します。
準備
ワークショップを始める前に、いくつかの準備が必要です。
-
ツールの選定と準備:
- オンラインホワイトボードツール: Miro, Mural, FigJamなど、オンラインで共同編集可能なホワイトボードツールは、付箋機能やグルーピング機能があり、アフィニティ図の作成に最適です。もしこれらのツールが利用できない場合でも、以下の代替案で対応可能です。
- 代替案1（プレゼンテーションツール）: PowerPointやGoogleスライドなどのプレゼンテーションツールのスライドを大きな模造紙のように見立て、図形機能で「テキストボックス」や「付箋風の図形」を作成し、配置・移動させることでアフィニティ図を表現できます。
- 代替案2（表計算ツール）: ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ツールのセルをカードに見立てたり、図形挿入機能で付箋を作成してシート上に配置したりすることも可能です。
- 代替案3（ドキュメントツール）: WordやGoogleドキュメントでも、テキストボックスや図形機能を使って要素を配置することは可能ですが、自由な移動や複数人での同時編集には制限があるため、ワークショップ形式にはあまり向かないかもしれません。オンラインホワイトボードツールまたはプレゼンテーションツールを推奨します。
- 今回は、オンラインホワイトボードツールを想定して手順を説明しますが、他のオフィスツールでも同様の考え方で実践できます。
- ワークショップで使用するツール上に、後述する各ステップで使うエリア（例: データ置き場、グループ化エリア、インサイト記載エリアなど）を事前に準備しておくとスムーズです。
-
データの準備:
- ユーザーインタビューの議事録、観察記録、アンケートの自由回答など、今回分析したい定性データを集約します。
- これらのデータから、ユーザーの発言（引用）、行動、感情、課題、要望など、インサイトに繋がりそうな要素を一つずつ特定します。
-
タイムスケジュールと参加者:
- ワークショップの目的（例: 特定のユーザー層の深掘り、ある機能に関する課題発見など）を明確にします。
- 参加者は、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニア、マーケターなど、多様な視点を持つチームメンバーが望ましいです。
- 所要時間はデータの量や参加人数によりますが、短時間（例えば1時間半〜2時間）で集中して行うと効果的です。各ステップにおおよその時間を割り振っておきます。
- ワークショップを円滑に進めるためのファシリテーターを決めます。
ステップ1：データのカード化
準備したデータから抽出した個々の要素（ユーザーの具体的な発言、観察された行動など）を、オンラインホワイトボードツール上の「付箋」や「テキストボックス」として作成します。
- ポイント: 一つのカードには一つの事実や発言のみを記述します。簡潔で分かりやすく書くことを心がけます。誰の発言/行動か、どのインタビューからかなどを簡単に示しておくと、後で参照する際に役立ちます。
- 例: 「〇〇という機能の使い方がよく分からない」「いつも△△の画面で迷ってしまう」「こういう機能があったら便利だと思う」「操作中にため息をついていた」など。
- 参加者全員で手分けしてカードを作成すると効率的です。作成したカードは一旦、所定のエリアにバラバラに配置します。
ステップ2：カードの配置とグループ化
作成したカード全体を俯瞰し、内容が似ているもの、関連性の高いもの同士を物理的に近くに移動させて集めます。この段階では、まだ厳密な「グループ」を定義するのではなく、あくまで「近しいかな？」と感じるものを集めていく作業です。
- ポイント:
- 参加者全員で自由にカードを動かします。他の人が動かしたカードをさらに動かしても構いません。
- 言葉尻ではなく、カードに書かれた「意味」や「文脈」に着目して関連性を探します。
- 迷ったら無理にグループ化せず、単独で置いておいても構いません。
- この段階では、グループ名などはまだつけません。純粋にカードの内容に基づく直感的な関連性を見つけていきます。
ステップ3：グループの検討と表札化
近くに集められたカードのまとまりを見て、それが一つの「グループ」として成立するかをチームで話し合います。グループとしてまとまりがあると判断できたら、そのグループ全体を表す簡潔なタイトル（表札）をつけます。
- ポイント:
- なぜこれらのカードがまとまっているのか、共通点は何かを話し合います。
- グループ名は、そのグループが包含する内容を端的に表すように工夫します。抽象的すぎず、具体的すぎない名前を目指します。
- グループ化に迷うカードは、チームで話し合ってどのグループに入れるか、あるいは新しいグループを作るかを決めます。
- 必要であれば、グループをさらに細かいサブグループに分けることも可能です。
ステップ4：グループ間の関係性の構造化
グループ化されたカードと、それぞれのグループの表札が出揃ったら、次にグループ間の関係性や構造を検討します。
- ポイント:
- ある課題が別の課題の原因になっているか、あるニーズが別のニーズと関連しているか、など、グループ間の論理的な繋がりを見つけます。
- オンラインホワイトボードツールのコネクタ線機能などを使って、関係性のあるグループ同士を線で結んだり、階層構造になるように配置したりします。
- なぜそのように関係性が存在するのか、チームで議論し、構造化を進めます。
ステップ5：インサイトの抽出
アフィニティ図が完成したら、最も重要なステップである「インサイトの抽出」を行います。整理・構造化されたグループやグループ間の関係性を観察し、そこからユーザーの行動や心理、根源的なニーズに関する「気づき」や「発見」を言葉にします。
- ポイント:
- 単なるデータの要約ではなく、「なぜそうなのか」「これは何を意味するのか」「プロダクトにとってどのような示唆があるか」といった深い洞察を目指します。
- 「〇〇という課題を抱えるユーザーは、××といった状況で、△△という行動をとりがちであり、その根底には◇◇という満たされないニーズがあるのではないか」のように、具体的なユーザー像や状況と結びつけて表現すると、より行動に繋がりやすいインサイトになります。
- インサイトは、プロダクト開発チーム全体で共有できるよう、明確で簡潔な言葉で表現します。インサイトもカードとして作成し、アフィニティ図の近くに配置したり、関連するグループと紐付けたりすると良いでしょう。
ワークショップを成功させるためのヒント
- タイムキーピング: 各ステップに時間を割り振り、ファシリテーターが時間管理を徹底します。集中力を維持し、時間内に目的を達成するために重要です。
- 全員参加の促進: 立場に関わらず、参加者全員が平等に発言し、カードを動かせる雰囲気を作ります。オンラインツールの場合は、全員が同時に操作できるため参加しやすいでしょう。
- 批判禁止の原則: カードの内容やグループ化の過程での意見に対して、批判的なコメントを避け、建設的な議論を促します。「それは違う」ではなく、「別の見方もできるかもしれない」といった伝え方を心がけます。
- ファシリテーション: ファシリテーターは、議論が行き詰まった際に質問を投げかけたり、目的から逸れそうになった場合に軌道修正したりと、ワークショップの流れを円滑に進める役割を担います。
実務での活用と次に繋げるステップ
アフィニティ図ワークショップで得られたインサイトは、その場で終わらせず、必ずプロダクト開発の実務に活かします。
- インサイトを開発チーム全体に共有し、プロダクトバックログの項目として検討したり、機能の要件定義に反映させたりします。
- 発見された課題やニーズに基づいて、新しいアイデア発想のワークショップを実施するきっかけとすることもできます。
- 作成したアフィニティ図やインサイトは、ドキュメントとして整理し、チームの共有スペースに保管しておきます。これは、後から振り返ったり、新しいメンバーがユーザー理解を深める上でも役立ちます。
まとめ
ユーザーインタビューなどの定性データから真のインサイトを見つけ出すことは、ユーザー起点のプロダクト開発において不可欠なプロセスです。アフィニティ図（親和図法）は、この複雑なデータを整理・分析し、チームで共通理解を築きながらインサイトを抽出するための有効な手法です。
特別なデザインツールがなくても、オンラインホワイトボードツールやプレゼンテーションツールなどの一般的なオフィスツールを活用すれば、手軽にチームでのアフィニティ図ワークショップを実施できます。
今回ご紹介したステップを参考に、ぜひあなたのチームでもユーザーの生の声に耳を傾け、アフィニティ図ワークショップを通して、プロダクト開発に役立つ貴重なインサイトを発見してみてください。これは、よりユーザーに寄り添った、真に価値のあるプロダクトを生み出すための一歩となるでしょう。