チームで始める オンラインホワイトボードツール活用:ユーザー理解ワークショップの具体的な進め方
チームでユーザー理解を深めることの重要性
プロダクト開発において、ユーザーの真のニーズや課題を理解することは、成功に不可欠な要素です。しかし、ユーザー理解は特定の担当者だけが行うものではなく、開発に携わるチーム全体で共通認識を持つことが望ましいとされています。チームメンバーそれぞれが異なる視点を持っているため、協力してユーザー像を掘り下げることで、より多角的で深いインサイトを得ることができるからです。
特に、様々な役割を持つチームメンバーが共通のユーザー理解を持つことは、プロダクトの方向性を一致させ、手戻りを減らし、よりユーザーにとって価値のある機能やサービスを生み出すことに繋がります。
本記事では、非デザイナーを含むチームでも手軽に始められる、オンラインホワイトボードツールを活用したユーザー理解ワークショップの具体的な進め方をご紹介します。特別なデザインツールや専門知識がなくても、チームの協力を得ることでユーザー理解を深め、プロダクト開発に活かすことが可能です。
なぜオンラインホワイトボードツールなのか
UXデザインの実践には、様々なツールが活用されます。ユーザー理解を深めるワークショップにおいても、紙やホワイトボード、オフィスツールなどが用いられます。近年、特にリモートワーク環境でのチームコラボレーションにおいて有効なのが、MiroやFigJamのようなオンラインホワイトボードツールです。
オンラインホワイトボードツールがユーザー理解ワークショップに適している理由はいくつかあります。
- 共同編集の容易さ: 複数のメンバーが同時に、リアルタイムでボード上にアイデアや情報を書き込んだり、移動させたりできます。物理的な距離があっても、あたかも同じ部屋にいるかのように共同作業が可能です。
- 視覚的な思考支援: 付箋、図形、コネクターなどを用いて、アイデアや情報を視覚的に整理できます。これは、思考プロセスを可視化し、チームメンバー間での理解を促進します。
- 豊富なテンプレート: ユーザー理解を深めるための様々なワークショップ形式(共感マップ、カスタマージャーニーマップなど)に対応したテンプレートが用意されていることが多く、ゼロから準備する手間を省けます。
- 情報の集約と共有: ワークショップで生まれた議論や成果物を一つの場所に集約し、チーム全体で容易に共有できます。議事録や資料作成の手間を軽減できます。
これらの特性は、特にデザインツールに不慣れなメンバーがいるチームでも、創造的かつ効率的にユーザー理解ワークショップを進める上で大きなメリットとなります。
ユーザー理解ワークショップの目的
チームで実施するユーザー理解ワークショップの主な目的は、以下の通りです。
- ユーザー像の共有と共通理解の醸成: 既存のユーザーデータやメンバーそれぞれのユーザーに対するイメージを持ち寄り、具体的なユーザー像(ペルソナや共感マップなど)をチーム全体で共有し、共通認識を形成します。
- ユーザーへの共感の促進: ユーザーが何を感じ、何を考え、どのような行動をとるのかを掘り下げることで、チームメンバーがユーザーの立場に立って考える機会を創出します。
- 隠れたインサイトの発見: 複数のメンバーの視点や知識が集まることで、一人では気づけなかったユーザーの課題やニーズ、隠れた感情などを発見しやすくなります。
- プロダクト課題の特定: ユーザー理解を深める過程で、現在のプロダクトがユーザーのニーズに応えられていない点や、使いにくい点などの具体的な課題を特定します。
- 次のアクションへの繋げ方: ワークショップで得られたインサイトや特定された課題を、プロダクトの改善や新機能開発といった具体的なアクションに繋げるための糸口を見つけます。
オンラインホワイトボードツールを使ったユーザー理解ワークショップの具体的な進め方
ここでは、オンラインホワイトボードツールを使って、チームでユーザー理解を深めるための基本的なワークショップの進め方を、共感マップの要素を取り入れながらご紹介します。これは一つの例であり、チームの状況や目的に応じて内容は調整してください。
ステップ1:準備
- ツールの選定: MiroやFigJamなど、チームが利用しやすく、共同編集機能が充実しているオンラインホワイトボードツールを選定します。無料プランでも小規模なワークショップであれば十分な機能が提供されていることが多いです。
- ワークショップ形式の選択とテンプレート準備: 共感マップ、簡易ジャーニーマップなど、目的に合ったワークショップ形式を選択します。ツールに用意されているテンプレートを利用するか、手動で基本的なフレーム(例: 共感マップの4象限「見ていること」「聞いていること」「考えていること・感じていること」「言っていること・やっていること」)をボード上に作成します。
- 参加者選定: プロダクト開発に関わる様々な役割のメンバー(例: エンジニア、企画担当、マーケターなど)から数名を集めると、多様な視点が得られます。参加人数は5〜8名程度が理想的ですが、人数に応じてグループ分けも検討します。
- 時間設定: ワークショップ全体の時間(例: 1時間〜2時間)と、各パートの時間配分を設定します。タイマー機能があるツールを利用すると便利です。
- 必要な情報の準備: ワークショップのインプットとなる情報(ユーザーインタビューのメモ、アンケート結果、アクセス解析データ、サポートに寄せられた声など)を事前に共有しておきます。
ステップ2:導入(10-15分)
- 目的とゴールの共有: なぜこのワークショップを行うのか、何を目指すのかを明確に伝えます。チーム全体でユーザー理解を深め、プロダクト開発に活かすことが目的であることを強調します。
- ツールの簡単な説明: オンラインホワイトボードツールの基本的な操作方法(付箋の追加、移動、テキスト編集など)を簡単に説明します。事前に練習の機会を設けることも有効です。
- アイスブレイク(任意): 場の雰囲気を和らげ、参加者が自由に発言しやすい雰囲気を作るために簡単なアイスブレイクを行います。
- ユーザーの定義: ワークショップの対象となるユーザー(またはユーザーセグメント)を明確にします。特定のペルソナがいる場合はそれを提示します。
ステップ3:実践パート(60-90分)
このパートでは、参加者それぞれがユーザーの視点に立って考え、オンラインボード上にアイデアや情報を書き出していきます。共感マップを例に進めます。
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個人ワーク(15-20分):ユーザーの感情・思考を想像する
- 各参加者は、オンラインボード上の共感マップテンプレートの各象限に対し、対象ユーザーが「見ていること」「聞いていること」「考えていること・感じていること」「言っていること・やっていること」を、既存の情報や自身の経験をもとに付箋として書き出します。
- 付箋には具体的な内容を簡潔に記述します。一つの付箋に一つのアイデアや事実を書くように促します。
- この段階では、アイデアの質よりも量を重視し、自由に発想することを促します。
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共有とグループ化(20-30分):アイデアを共有し、類似するものをまとめる
- 各参加者が書き出した付箋を順番に共有し、その意図などを簡単に説明します。
- 共有された付箋の中で、内容が似ているものや関連性の高いものをグループ化していきます。オンラインホワイトボードツール上で付箋をドラッグ&ドロップしてまとめていきます。色の使い分けや図形などでグループを視覚的に整理することも有効です。
- グループには、内容を表す見出しやラベルをつけます。
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議論と深掘り(20-30分):なぜそうなのか、そこから何が言えるのかを議論する
- グループ化された内容や、特に興味深い、あるいは意見が分かれた付箋について議論します。「なぜユーザーはそう感じるのだろう」「この行動の背景には何があるのだろう」といった問いを立て、深掘りします。
- 議論を通じて出てきた新たな気づきや疑問点も、必要に応じて付箋として追加します。
- ユーザーが抱える「Pain(痛み、課題)」や「Gain(得たいこと、メリット)」についても議論し、ボードの該当箇所に書き出します。
ステップ4:成果の共有とまとめ(10-15分)
- ワークショップで出来上がった共感マップ全体を振り返ります。
- 今回発見されたユーザーに関する重要なインサイトや、チームとして特に注目すべき点、意見が一致しなかった点などを共有します。
- このユーザー理解から、現在のプロダクトが抱える課題や、今後取り組むべき改善点、新しいアイデアの種が見つかったかを話し合います。
- ワークショップの成果(完成したボード)をどのように保存・共有し、今後のプロダクト開発のどの段階で参照するかを確認します。例えば、特定の課題を次のアイデア発想ワークショップのテーマにする、特定されたPainを解決する機能を検討するなど、具体的な次のアクションに繋げる一歩とします。
ワークショップを成功させるためのポイント
- ファシリテーターの役割: ワークショップの目的を伝え、時間管理を行い、参加者全員が発言しやすい雰囲気を作り、議論が脱線しないように軌道修正するなど、ファシリテーターの役割は重要です。非デザイナーのメンバーでも、事前に準備すれば十分に務めることができます。
- 心理的な安全性: 参加者が自由に意見を述べ、質問し、率直なフィードバックを行えるよう、互いを尊重する雰囲気作りを心がけます。正しい、間違いではなく、様々な視点を歓迎します。
- 視覚的な工夫: 付箋の色を使い分けたり、関連する付箋を線で繋いだり、アイコンを活用したりするなど、視覚的に分かりやすく情報を整理する工夫を凝らします。
- ツールの習熟: 事前にツールに触れ、基本的な操作に慣れておくことで、ワークショップ当日の進行がスムーズになります。
- インプットの質: ワークショップの成果は、インプットとなるユーザー情報の質に左右されます。可能な限り、実際のユーザーデータや一次情報を用意することが望ましいです。
まとめ
オンラインホワイトボードツールを活用したユーザー理解ワークショップは、プロダクト開発チーム全体でユーザーへの共感を深め、共通理解を築くための有効な手段です。非デザイナーを含むチームでも、明確な目的設定と具体的なステップを踏むことで、手軽に実践することができます。
このワークショップを通じて得られたユーザーに関するインサイトは、プロダクトの改善点や新しいアイデアの発見に繋がり、結果としてよりユーザーに寄り添った価値の高いプロダクト開発に貢献します。ぜひ、チームでのユーザー理解ワークショップを実践し、プロダクト開発に活かしてください。