サポートログから読み解くユーザーの本音:プロダクト改善に繋げる分析と活用法
はじめに:なぜサポートログがUX改善に役立つのか
プロダクト開発において、ユーザーの真のニーズや抱える課題を正確に把握することは非常に重要です。UX起点デザインでは、ユーザー体験を中心に据え、プロダクトを継続的に改善していくことを目指します。その情報源の一つとして、日々のユーザーからの問い合わせやサポートログは、宝の山となり得ます。
サポートログには、ユーザーがプロダクトを利用する中で実際に直面した「困りごと」「つまずき」「誤解」などが具体的に記録されています。これらの生の声は、ユーザーテストやアンケートでは捉えきれない、プロダクトの「生きたUX課題」を示しています。デザインツールや専門知識がなくても、普段使っているオフィスツールを活用してサポートログを分析することで、ユーザーが本当に必要としている改善点や、気づいていない潜在的なニーズを発見できる可能性があります。
この記事では、サポートログをどのように収集・分析し、発見した課題をプロダクトのUX改善に繋げ、開発チームと効果的に連携していくかについて、具体的なステップと共にご説明します。
サポートログ分析で何がわかるか
サポートログを分析することで、プロダクトのUXに関する様々なインサイトを得ることができます。具体的には以下のような情報が含まれている可能性があります。
- ユーザーが頻繁につまずく操作や機能: 特定の機能に関する問い合わせが多い場合、その機能の操作性や理解度に課題がある可能性が考えられます。
- ユーザーが期待する機能や情報: 「〇〇はできませんか」「〇〇の情報を知りたい」といった問い合わせは、ユーザーの隠れたニーズを示唆していることがあります。
- エラーや不具合: 技術的な問題だけでなく、ユーザーがエラーメッセージを理解できない、想定外の操作をしてしまうといった状況もUX課題となり得ます。
- プロダクトへの不満や要望: ユーザーがプロダクトの使いにくさや不足していると感じる点について、率直な意見が含まれていることがあります。
- ユーザーの知識レベルや前提: ユーザーがどのような知識を持ってプロダクトを使おうとしているか、どのような用語で問い合わせてくるかなどから、ターゲットユーザー像との乖離や、提供している情報の適切さを推測できます。
これらの情報は、定量的な利用データだけでは見えにくい、ユーザーの感情や思考プロセスを理解する手がかりとなります。
具体的なサポートログ分析のステップ
サポートログを分析し、UX改善に繋げるための具体的なステップを、オフィスツール(表計算ソフトや文書作成ソフトなど)を活用することを前提に見ていきましょう。
ステップ1:ログの収集と準備
まず、サポートログのデータを入手します。これはカスタマーサポートツールからエクスポートしたり、問い合わせフォームの記録を集計したりする方法が一般的です。入手したデータは、分析しやすいように表計算ソフトに取り込みます。
次に、分析の粒度を決めます。全てのログを詳細に見るのが難しい場合は、一定期間のログや、特定の機能に関するログに絞ることも有効です。
そして、ログの分類を行います。問い合わせ内容を、以下のようなカテゴリに分類すると分析が容易になります。
- 操作方法に関する質問
- 機能に関する要望や提案
- 不具合やエラーの報告
- アカウントや契約に関する問い合わせ
- その他
この分類作業は、キーワード検索や簡単なスクリプト、あるいは手作業で行います。特に、操作方法や機能に関する問い合わせ、不具合報告などに注目します。
ステップ2:課題の特定
分類したデータの中から、頻出する問い合わせ内容や、複数のユーザーから寄せられている同様の困りごとに注目します。表計算ソフトのフィルタリングや集計機能を使って、特定のキーワードを含む問い合わせの件数や、同じカテゴリに分類された問い合わせの数を集計します。
件数が多いもの、あるいは内容が深刻であると考えられるものを、プロダクトのUX課題候補としてリストアップしていきます。この段階では、「ユーザーは〇〇で困っているようだ」という仮説の形で整理します。
ステップ3:課題の深掘り
リストアップした課題候補について、関連するログの詳細を読み込み、ユーザーがなぜ困っているのか、その背景や根本原因を推測します。「どうしてこのような問い合わせが多いのだろう?」「ユーザーは何をしようとして、うまくいかなかったのだろう?」といった問いを立てながら、ログを深掘りします。
この際、関連するスクリーンショットや、ユーザーが利用していた環境などの情報があれば、それも参考にします。必要であれば、実際にプロダクト上で同様の操作を試し、ユーザーが直面した状況を再現してみることも有効です。
ステップ4:課題の整理と構造化
深掘りして得られたインサイトや推測される根本原因を整理します。複数のユーザーから寄せられた類似の困りごとをまとめ、より抽象度の高い「UX課題」として定義します。例えば、「特定の機能へのアクセス方法が分からない」という複数の問い合わせログから、「ナビゲーションの設計に課題があり、ユーザーが目的の機能にたどり着けない」といった形で課題を定義します。
これらの課題を視覚的に整理するために、アフィニティ図を作成するのも効果的です。これは、付箋に一つ一つの課題やインサイトを書き出し、関連性の高いものをグループ化していく手法です。オフィスツールの描画機能や、オンラインホワイトボードツールなどを代替として使用できます。これにより、個別の問い合わせログの背後にある、構造的な課題やユーザーのニーズの全体像が見えてきます。
発見した課題をプロダクト改善に繋げる方法
分析によってUX課題が明らかになったら、それをプロダクトの改善活動に繋げていきます。
開発チームへの共有
発見したUX課題やインサイトを開発チームや関係者に共有します。共有する際には、単に問い合わせ内容を羅列するのではなく、分析によって明らかになった「ユーザーの困りごと」や「それがなぜ発生するのかという推測される原因」、「それによってユーザー体験がどのように損なわれているか」を具体的に、かつデータ(問い合わせ件数など)を交えて伝えます。
課題を整理したアフィニティ図や、特定の問い合わせが多い箇所のプロダクト画面のキャプチャなどを活用すると、より伝わりやすくなります。文書作成ソフトでレポートを作成したり、プレゼンテーションツールで発表資料を作成したりすることが考えられます。ユーザーの言葉を引用する際は、個人情報に配慮しつつ、ユーザーが抱える感情や切実さが伝わるように工夫します。
改善アイデア検討
共有された課題に基づき、開発チームや関係者と共に改善アイデアを検討します。サポートログから得られたインサイトは、具体的な改善策を考える上での強力なヒントになります。「この困りごとを解消するには、どのような機能やUIの変更が必要か」「どのような情報を提供すればユーザーは迷わないか」といった視点でブレインストーミングを行います。
優先順位付け
洗い出された改善アイデアや対応すべき課題に対して、優先順位をつけます。サポートログの分析結果(問い合わせの頻度や深刻度)に加え、ビジネスへの影響度、開発コストなどを考慮して、どの課題から優先的に取り組むかを判断します。これは、開発チームとの密な連携が必要となるプロセスです。
改善の実施と効果測定
優先順位の高い課題から、具体的な改善策を実装していきます。改善をリリースした後は、再びサポートログや他の指標(例えば、特定の操作の完了率など)をモニタリングし、改善の効果があったかどうかを確認します。このサイクルを回すことで、プロダクトのUXは継続的に向上していきます。
実務での注意点とコツ
サポートログを活用したUX改善を実務で効果的に進めるための注意点やコツをいくつかご紹介します。
- 定期的な分析の習慣化: 一度きりの分析で終わらせず、定期的にサポートログを確認・分析する習慣をつけましょう。プロダクトは常に変化し、ユーザーの行動も変化するため、新しい課題は常に生まれてきます。
- 他の情報源との組み合わせ: サポートログは貴重な情報源ですが、それだけでユーザーの全てを理解できるわけではありません。ユーザーテスト、アンケート、アクセス解析などの他のデータと組み合わせて分析することで、より多角的な視点からユーザー体験を理解できます。
- チームでの取り組み: サポートログ分析は、カスタマーサポート担当者、開発者、プロダクトマネージャーなど、様々な立場の人が協力して行うことでより効果を発揮します。それぞれの知見を持ち寄り、共通の課題認識を持つことが重要です。定期的な分析結果共有会などを設けることも有効です。
- 「声なき声」への想像力: サポートログに現れるのは、困ったときに「声を上げる」ユーザーの声です。多くのユーザーは困っても問い合わせをしない可能性があります。サポートログを分析する際は、「これは氷山の一角かもしれない」という意識を持ち、「声を上げないユーザーはどのような点で困っている可能性があるか」と想像力を働かせることも大切です。
まとめ:サポートログ活用で一歩進むUX改善
ユーザーからの問い合わせやサポートログは、プロダクトのUX課題を肌で感じられる、非常に身近で実用的な情報源です。特別なツールがなくても、普段使い慣れたオフィスツールを活用し、ご紹介したステップで分析を進めることで、ユーザーの真の困りごとやニーズを明らかにすることができます。
発見した課題を開発チームと具体的に共有し、改善活動に繋げるプロセスは、プロダクトのUXを向上させるだけでなく、開発チーム全体のユーザー理解を深め、よりユーザー中心のプロダクト開発文化を醸成することにも貢献します。
ぜひ、日々のサポートログに目を向け、プロダクトのUX改善の第一歩を踏み出してみてください。