プロダクトの成功に繋がるUX目標設定：ユーザー期待値を理解しチームで共有する方法
プロダクト開発において、ユーザーの真のニーズを把握することは非常に重要です。しかし、そのニーズから具体的にどのような「体験」を目指すべきか、開発チーム全体で共通認識を持つことは容易ではありません。ここで重要となるのが、ユーザー体験（UX）の目標設定です。
UX目標を設定することで、プロダクトがユーザーに提供すべき価値や、目指すべき体験の質が明確になります。これにより、開発の方向性が定まり、チームメンバーが共通のゴールに向かって効率的に進めるようになります。
この記事では、ユーザーの期待値を理解することから始め、非デザイナーの方でも取り組みやすい方法でプロダクトのUX目標を設定し、チームに共有する具体的なステップをご紹介します。
なぜUX目標設定が重要なのか
ユーザーのニーズや課題を理解しても、それが直接的にどのようなプロダクトの形や機能に繋がるかは、解釈によってブレが生じることがあります。UX目標は、このブレを最小限に抑え、目指すべき「ユーザーがどのような体験をするか」という状態を具体的に定義する羅針盤となります。
UX目標がない場合、以下のような課題が発生しやすくなります。
- 開発の迷走: どの機能を作るべきか、デザインの優先順位はどうするかなど、判断基準が曖昧になり、議論が収束しにくくなります。
- チーム間の認識齟齬: 企画、開発、マーケティングなど、各チームでユーザーへの提供価値や目指す体験に対するイメージが異なり、連携に支障をきたす可能性があります。
- ユーザーの期待とのズレ: ユーザーが本当に求めている体験から外れたプロダクトになってしまい、利用率の低下や顧客満足度の低下に繋がる恐れがあります。
明確なUX目標は、これらの課題を防ぎ、ユーザーにとって本当に価値のあるプロダクト開発を推進するための基盤となります。
ステップ1：ユーザー期待値の理解を深める
UX目標を設定する最初のステップは、ユーザーがプロダクトに対してどのような期待を抱いているかを深く理解することです。これは、過去に実施したユーザーインタビューやユーザーテスト、カスタマージャーニーマップ、ペルソナなどのUXリサーチの結果から読み取ることができます。
ユーザーの期待値は、以下のようなレベルで捉えることができます。
- 基本的な期待: プロダクトが最低限満たすべき機能や品質に関する期待（例：ウェブサイトがすぐに表示される、登録が簡単に行える）。
- 通常の期待: よくあるプロダクトであれば備わっているだろうとユーザーが想定する機能や体験に関する期待（例：検索機能がある、サポートに問い合わせができる）。
- 理想的な期待: ユーザーが「こうだったら素晴らしい」「想像以上だ」と感じるような、付加価値や感動に繋がる期待（例：自分の状況に合わせた最適な情報が提案される、困ったときに先回りしてサポートしてくれる）。
これらの期待値を、UXリサーチで得られた具体的なユーザーの発言や行動、課題などと紐づけて整理します。非デザイナーの方であれば、特別なツールを使わずとも、スプレッドシートやドキュメントファイルにユーザーセグメントごと、あるいはジャーニーの各ステップごとに期待値をリストアップすることから始められます。オンラインホワイトボードツールがあれば、付箋機能を使って期待値を書き出し、グループ化するような簡単なワークショップ形式で行うことも可能です。
ステップ2：ユーザー期待値からUX目標を定義する
ユーザー期待値の理解が深まったら、次にそれを具体的なUX目標に落とし込みます。UX目標は、単なる機能リストではなく、「プロダクトを通じてユーザーがどのような状態になるか」「どのような体験を得られるか」という、体験の質に焦点を当てた記述となるべきです。
良いUX目標を設定するためには、以下の点を意識すると良いでしょう。
- ユーザー視点であること: 「ユーザーが〇〇できるようになる」「ユーザーが〇〇と感じる」といった、ユーザーを主語にした表現を用いる。
- 具体的であること: 抽象的な表現を避け、どのような状態を目指すのかが具体的にイメージできる言葉を選ぶ。定量的な指標（KPI）と関連付けることも有効ですが、ここでは体験の質が中心です。
- 測定可能であること（可能であれば）: 目標達成度を何らかの方法で測れるようにする。定性的な観察やユーザーの声も立派な測定方法です。
- 現実的かつ挑戦的であること: チームの能力やリソースで達成可能な範囲で、しかし現状より改善された状態を目指す。
- 理解しやすく、共有しやすいこと: 専門用語を避け、開発チームだけでなく関係者全員が理解できるシンプルな言葉で表現する。
例えば、「登録プロセスを簡単にする」という目標よりも、「初めてプロダクトを使うユーザーが、迷うことなく5分以内に登録を完了し、スムーズに利用を開始できる」という目標の方が、より具体的でユーザー視点です。
UX目標の定義は、チームでワークショップ形式で行うのが効果的です。ステップ1で整理したユーザー期待値を全員で共有し、それらが満たされたらユーザーはどのような体験をするか、プロダクトはそのためにどうあるべきかを議論します。
オフィスツールを使う場合は、ドキュメントファイルやプレゼン資料をテンプレートとして用意し、チームで共有しながら記述していくことができます。以下のような項目を盛り込むと、目標が整理しやすくなります。
- 対象ユーザー: (例：初めてプロダクトを使うユーザー、頻繁に利用するヘビーユーザー)
- 目標とする体験: (例：迷うことなく登録を完了できる、効率的にタスクを管理できる)
- 現状の課題（目標設定の背景）: (例：登録フォームが複雑で離脱が多い、情報が多くて必要な情報が見つけにくい)
- 目標が達成された状態の具体的な描写: (例：登録完了率が〇〇%に向上し、ユーザーが「思っていたより簡単だった」と感じる、ユーザーが目的の情報に平均〇〇秒でたどり着ける)
- 成功を判断するための指標（定性・定量）: (例：ユーザーインタビューで肯定的な意見が増加、特定のタスク完了までの時間短縮、エラー発生率の低下)
ステップ3：設定したUX目標をチームで共有し活用する
定義したUX目標は、設定するだけでなく、開発チーム全体で共有し、日々の開発活動の中で活用していくことが重要です。
設定したUX目標をまとめたドキュメントを、チームの共有スペース（プロジェクト管理ツール、ファイル共有サービスなど）に配置し、いつでも参照できるようにします。定例会議や企画レビューの際に、設定したUX目標を改めて確認し、開発中の機能やデザインがその目標に貢献しているか、目標と矛盾していないかといった観点で議論します。
例えば、新しい機能を企画する際に、「この機能は、設定したUX目標である『ユーザーが効率的にタスクを管理できる』にどのように貢献するだろうか？」と問いかけます。デザイン案をレビューする際には、「このデザインは、目標である『ユーザーが迷うことなく目的の情報にたどり着ける』を実現しているか？」といった視点で評価します。
このように、UX目標を共通の判断基準として活用することで、チーム全体がユーザー体験を意識した意思決定を行えるようになり、プロダクトの質を高めることに繋がります。
まとめ
プロダクトのUX目標設定は、ユーザーの真のニーズを捉え、開発チームが目指すべき具体的な体験の姿を共有するための重要なステップです。特別なデザインツールがなくても、ユーザーリサーチから得られた期待値を丁寧に読み解き、チームで話し合いながら言語化することで、質の高いUX目標を設定することが可能です。
設定したUX目標は、開発の羅針盤となり、チーム間の認識齟齬を防ぎ、ユーザーにとって価値のあるプロダクト開発を後押しします。まずは担当しているプロダクトや機能の一部からでも、ユーザー期待値の理解とUX目標設定に取り組んでみることをお勧めします。この記事で紹介したステップや考え方が、皆さんのプロダクト開発に役立つヒントとなれば幸いです。