プロダクト改善に役立つユーザーの「言葉」分析:オフィスツールで始める具体的なステップ
ユーザーの「言葉」に注目する重要性
プロダクト開発において、ユーザーの真のニーズや課題を理解することは不可欠です。そのための手段として、ユーザーインタビューやアンケート、ユーザーテストなどが広く行われています。これらの調査でユーザーから得られる「言葉」は、プロダクトの現状に対する率直な評価、期待、そして隠されたニーズが凝縮された貴重な情報源です。
ユーザーがどのような言葉でプロダクトを表現するかを知ることは、単に表面的な意見を聞く以上の意味を持ちます。ユーザーの言葉遣いからは、彼らがプロダクトや関連する概念をどのように理解しているか、どのようなメンタルモデルを持っているか、そしてどのような文脈で使用しているかが浮かび上がってきます。例えば、「クリック」と「タップ」、「登録」と「申し込む」といった言葉の選び方の違い一つにも、ユーザーの経験や期待が反映されていることがあります。
しかし、非デザイナーの担当者にとって、「ユーザーの言葉」をどのように収集し、分析し、プロダクト改善に繋げれば良いか、具体的な方法が見えにくいかもしれません。専門的な分析ツールや高度な知識が必要だと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、特別なデザインツールや分析ツールを使わず、普段業務で使用しているオフィスツール(スプレッドシートやドキュメント作成ツールなど)を活用して、ユーザーの言葉を分析し、プロダクト改善のヒントを見つける具体的なステップをご紹介します。
言葉の分析から何が得られるか
ユーザーの言葉を分析することで、以下のようなプロダクト改善に役立つ洞察を得ることが期待できます。
- ユーザーのプロダクト理解度: プロダクトの機能や概念について、ユーザーがどのような言葉で説明するかを見ることで、彼らの理解レベルや誤解しやすい点を特定できます。
- 具体的な課題や不満: 抽象的な意見だけでなく、「〇〇という操作が△△と表現されていて分かりにくい」「□□しようと思ったが、どう探せば良いか分からない」といった具体的な課題や不満の表現が見つかります。
- 隠れたニーズや期待: ユーザーが既存のプロダクトや他のサービスについてどのように話すかから、「もし〇〇ができたら便利なのに」「本当は△△を探していた」といった潜在的なニーズや期待が明らかになることがあります。
- 適切なコミュニケーション: ユーザーが日常的に使用する言葉や表現を理解することで、プロダクト内のUIコピー、ヘルプコンテンツ、マーケティングメッセージなどを、よりユーザーに響く、分かりやすいものに改善するヒントが得られます。
分析に活用できるデータソース
ユーザーの言葉を集めるためのデータソースは身近なところに多数存在します。オフィスツールで収集・整理しやすい代表的なソースを挙げます。
- ユーザーインタビューやアンケートの自由記述: ユーザー自身の言葉で語られた、感情や具体的な状況を含む貴重なデータ源です。
- サポートへの問い合わせログ: ユーザーがプロダクトで困った際にどのような言葉で問題を説明するかを知ることができます。
- レビューサイトやSNSでの言及: プロダクトに対する率直な評価や感想が、多様なユーザー層から得られます。
- ユーザーテスト時の発話: ユーザーがタスクを実行しながら考えることを声に出してもらう(思考発話法)ことで、操作中の迷いや疑問、意図が言葉として現れます。
これらのデータから、「ユーザーがプロダクトについて語っている部分」を抽出・収集します。
オフィスツールで始める言葉分析の具体的なステップ
ここでは、スプレッドシート(Microsoft ExcelやGoogle Sheetsなど)を中心に活用した分析ステップをご紹介します。
ステップ1: データの収集と整理
まず、分析対象とするデータソースから、ユーザーがプロダクトについて言及している部分をテキストデータとして抽出します。
例えば、アンケートの自由記述回答、サポートログのテキスト、インタビューの逐語録などから、関連性の高い部分をコピー&ペーストします。
これらのテキストデータをスプレッドシートに集約します。1つの行を1つの発言や意見のまとまりとし、以下の情報を列として記録すると整理しやすくなります。
- ID(通し番号など)
- データソース(例: アンケート、サポートログ、インタビュー)
- ユーザー属性(可能であれば。例: 職種、利用頻度)
- 具体的なユーザーの言葉(最も重要な列)
- 発言があった日時(可能であれば)
ステップ2: キーワードとフレーズの抽出
集約したテキストデータ全体を読み返し、特に注目すべき単語や言い回し、繰り返し現れるフレーズを抽出します。
- 頻出する言葉: プロダクト名、機能名、操作に関する言葉(「設定」「保存」「検索」など)、状態に関する言葉(「遅い」「エラー」「簡単」など)の中で、特に多く使われている言葉に注目します。スプレッドシートの検索機能や、簡単な文字列カウント機能が役立ちます。
- 感情や評価を表す言葉: 「〜が難しい」「〜に困っている」「〜が便利」「〜で助かる」など、ユーザーの感情やプロダクトに対する評価を直接的に示す言葉やフレーズを拾い上げます。
- 比喩や固有の言い回し: ユーザーがプロダクト内の特定の要素を、公式名称とは異なる独自の言葉や比喩で表現していないか確認します。これはユーザーのメンタルモデルを知る上で重要です。
抽出した言葉やフレーズを、元の発言と紐づけてスプレッドシートにメモしておくと、後から文脈を確認しやすくなります。
ステップ3: カテゴリ分けとグルーピング
抽出したキーワードやフレーズ、あるいはユーザーの個々の発言全体を、共通するテーマや意味合いに基づいてカテゴリに分類し、グルーピングします。
スプレッドシートに新しい列を追加し、「カテゴリ」や「テーマ」といった列名を設定します。各発言や抽出した言葉に対して、該当するカテゴリ名を記入していきます。例えば、以下のようなカテゴリが考えられます。
- 操作の分かりやすさ
- 特定の機能への要望
- エラーや不具合に関する言及
- 料金や契約に関する質問
- 他のツールとの比較
- UIデザインに関する意見
カテゴリ名に迷う場合は、最初は仮の名前で分類を進め、データが集まるにつれて refine(洗練)していく形で問題ありません。スプレッドシートの並べ替え機能を使えば、同じカテゴリの発言をまとめて表示できるため、全体像を把握しやすくなります。
ステップ4: 洞察(インサイト)の発見
カテゴリ分けされたユーザーの言葉を俯瞰し、そこからプロダクト改善に繋がる洞察(インサイト)を導き出します。
単に言葉を分類するだけでなく、「なぜユーザーはその言葉を使っているのか?」「その言葉の背景にあるユーザーの状況や感情は何か?」といった問いを立てて考えてみることが重要です。
例えば、「『設定』という言葉を使わずに『アカウント情報の変更』と言っているユーザーが多い」という分類結果があったとします。ここから「ユーザーはプロダクトの『設定』機能が、アカウント情報のみを扱う場所だと誤解している可能性がある」「一般的な『設定』という言葉が、ユーザーの期待する操作(例:通知設定、プライバシー設定など)を連想させていないかもしれない」といった洞察が生まれます。
発見した洞察は、具体的な記述としてスプレッドシートや別のドキュメントにまとめます。「ユーザーは〇〇という言葉で△△について言及しており、その背景には□□という課題やニーズがあると考えられる」のように構造化して記述すると、伝わりやすくなります。
ステップ5: プロダクト改善への接続
最後に、発見した洞察を具体的なプロダクト改善アクションに繋げます。
例えば、「ユーザーは『設定』をアカウント情報変更と誤解している」という洞察からは、以下のような改善アクションが考えられます。
- UIコピーの修正:「設定」というラベルをより具体的な「アカウント設定」や、内容に合わせた複数のエントリに分割する。
- ヘルプコンテンツの拡充:設定画面で何ができるかを明確に説明するヘルプ記事を作成する。
- 機能の見直し:本当に「設定」という言葉がプロダクト全体の構造と合っているか再検討する。
発見した洞察と、そこから考えられる改善アクションをリスト化し、優先順位を検討します。スプレッドシートに「改善アクション案」「関連機能」「優先度」といった列を追加して整理することも有効です。これらの情報を開発チームと共有することで、ユーザー視点に基づいた議論を促進できます。
実践のヒントと注意点
- 少量から始める: 最初から全てのデータソースを網羅しようとせず、まずは特定のアンケート回答や直近1ヶ月のサポートログなど、手に入りやすい少量のデータから分析を始めてみることを推奨します。
- 完璧を目指さない: 精密な言語分析を行おうとせず、まずは傾向や目立つパターンを掴むことを目指します。非デザイナーでも実践できる範囲で、着実に進めることが重要です。
- 文脈を重視する: 抽出した言葉単体だけでなく、それがどのような会話や状況の中で発されたのか、必ず元の文脈を確認するようにしてください。
- チームで共有・議論する: 分析結果やそこから得られた洞察は、一人で抱え込まずに開発チームや関係者と積極的に共有し、話し合いながら進めることで、より多角的な視点が得られ、具体的なアクションに繋がりやすくなります。
- 定量データとの組み合わせ: 言葉の分析で得られた定性的な洞察を、プロダクトの利用データ(アクセス数、コンバージョン率など)といった定量データと組み合わせることで、課題の深刻度や影響範囲をより正確に把握できます。
まとめ
ユーザーがプロダクトについて使う「言葉」には、ユーザーの思考や感情、ニーズに関する多くのヒントが隠されています。これらの言葉を丁寧に収集し、オフィスツールを活用したステップで分析することで、プロダクトの課題発見、改善、そしてユーザーとのコミュニケーション最適化に繋がる価値ある洞察を得ることができます。
特別なツールや専門知識がなくても、普段使い慣れたスプレッドシートやドキュメント作成ツールがあれば、すぐにでもユーザーの言葉の分析を始めることが可能です。本記事で紹介したステップを参考に、ぜひあなたのプロダクト開発にユーザーの「生きた言葉」を活かしてみていただければ幸いです。