UX起点デザイン

プロダクト開発のためのペルソナ作成ステップ:オフィスツールで始めるUX起点のアプローチ

Tags: UXデザイン, ペルソナ, プロダクト開発, デザイン思考, ユーザー理解

はじめに

プロダクト開発において、ユーザーの視点を深く理解することは成功の鍵となります。表面的な要望だけでなく、ユーザーが抱える隠れた課題や真のニーズを把握することが、UX起点デザインの出発点です。ユーザー理解を深めるための有効な手法の一つに「ペルソナ」の作成があります。

ペルソナとは、プロダクトの典型的なユーザー像を具体的に描き出した、架空の人物モデルです。年齢、職業、趣味といった基本的な情報に加え、プロダクトや関連する活動における目標、課題、行動パターン、価値観などを詳細に設定します。これにより、開発チーム全体でユーザーイメージを共有し、ユーザー視点での意思決定を促進することが可能になります。

ユーザー調査や専門的なツールは、ペルソナ作成において非常に役立ちますが、必ずしも必須ではありません。本記事では、特別なデザインツールや専門知識がなくても、普段お使いのオフィスソフトなどを活用してペルソナを作成し、プロダクト開発に活かすための具体的なステップを解説します。実務ですぐに取り入れられる実践的なアプローチをご紹介いたします。

ペルソナとは何か

ペルソナは、ターゲットユーザーの特性を具体的に表現するために作られる、詳細な人物像です。単なるユーザー属性のリストではなく、あたかも実在するかのような一人の人間として設定されます。

ペルソナを作成することで、抽象的な「ユーザー」という概念が具体的になり、チームメンバー全員が同じ人物をイメージしながら開発に取り組めるようになります。

ペルソナ作成の準備

ペルソナ作成に取り掛かる前に、いくつかの準備をしておくと、スムーズに進めることができます。

  1. 目的の明確化: なぜ今、ペルソナが必要なのか、作成したペルソナをどのように活用したいのか(例:新しい機能のアイデア出し、既存機能の改善、マーケティング戦略策定など)をチーム内で共有し、目的を明確にします。目的が明確であるほど、ペルソナに含めるべき情報の焦点が定まります。
  2. 情報源の特定: ペルソナは、根拠に基づいていることが重要です。利用可能な情報源(既存の顧客データ、サポートに寄せられる問い合わせ内容、営業担当者の顧客とのやり取りの知見、簡易的なアンケート結果、Webサイトのアクセス解析データ、競合プロダクトのレビューなど)を確認し、どのような情報が得られるかを洗い出します。本格的なユーザー調査が難しい場合でも、社内にある情報は貴重な手がかりとなります。
  3. 協力者の確保: ペルソナ作成は、一人で行うよりも、プロダクトに関わる様々な立場のメンバー(開発、営業、カスタマーサポートなど)と共に行う方が、多角的な視点を取り入れられます。ワークショップ形式で実施することを計画し、関係者に協力を依頼します。

これらの準備を行うことで、ペルソナ作成のプロセスがより効率的かつ有意義なものになります。

ペルソナ作成の具体的な5ステップ(オフィスツールでの実施例)

ここでは、特別なツールを使わずに、身近なオフィスソフト(PowerPoint, Word, Excel, Google Docs, Google Sheets, Google Slidesなど)や、付箋とホワイトボード(またはそれらを代替するシンプルなオンラインツール)を活用することを想定した具体的なステップをご紹介します。

ステップ1:情報収集と整理

準備段階で洗い出した情報源から、ペルソナの元となる情報を収集します。 * 実施例: * 既存ユーザーの属性データ(Excel/Google Sheetsで一覧化)。 * サポートへの問い合わせ履歴から、ユーザーが抱える課題やよくある質問を抜き出す(Word/Google Docsでメモ)。 * 営業担当者や開発メンバーが知っているユーザー像やエピソードをヒアリングし、箇条書きでまとめる(メモアプリやチャットツール)。 * 既存ユーザーに簡単なオンラインアンケートを実施し、回答を集計する(Google Formsなどで作成)。 * 得られた情報を付箋に書き出し、壁やホワイトボードに貼り付けます。オンラインの場合は、シンプルなデジタルホワイトボードツール(Miro, Muralなども無料枠や簡易機能であれば利用可能、あるいは図形描画機能のあるオフィスソフトでも代替検討)や、スプレッドシートを使って情報をセルに書き込む方法も考えられます。

ステップ2:インサイトの抽出とグルーピング

収集した断片的な情報から、ユーザーの傾向や隠れたニーズ、課題といった「インサイト」を見つけ出します。似たような情報や関連性の高い情報をグループ化します。 * 実施例: * ステップ1で付箋に書き出した情報を、関連性のあるもの同士でまとめていきます(物理的な付箋の移動、またはデジタルホワイトボード上でのグルーピング)。 * グループごとに、それが示唆するユーザーのニーズや課題、行動パターンなどをディスカッションし、要約を書き出します。 * Excel/Google Sheetsであれば、フィルタリング機能や並べ替え機能を使って情報を整理し、傾向を把握します。Word/Google Docsの箇条書きを階層化したり、コメント機能を使ったりして情報を整理することも可能です。 * この段階で、どのようなユーザー層が複数存在するかの仮説が見えてくることがあります。

ステップ3:ペルソナの要素定義

グループ化された情報とインサイトを元に、具体的なペルソナの要素を定義していきます。典型的なユーザー像をいくつか選び、それぞれの詳細を設定します。最初は1〜3人程度から始めるのがおすすめです。 * 実施例: * ペルソナごとに、名前、年齢、職業、居住地、家族構成などの基本的な情報を設定します。 * 次に、そのペルソナの「目標」「課題」「行動パターン」「価値観」といった項目を、ステップ2で抽出したインサイトを元に具体的に記述していきます。例えば、「〇〇さんは、△△という課題を抱えており、それを解決するために、□□という行動をよくとります。彼にとって一番重要なのは、速さと正確さです。」のように記述します。 * ペルソナシートのテンプレートがない場合、WordやPowerPointのスライドに「名前」「目標」「課題」などの見出しを作り、情報を書き込んでいくことで代用できます。ペルソナシートの一般的な項目リストを参考に、必要な項目を設定してください。

ステップ4:ペルソナの記述とビジュアル化

定義した要素を統合し、一人の人物像としてのストーリーを作成します。情報を整理し、分かりやすいペルソナシートやスライドにまとめます。ペルソナの顔写真やイメージ画像を加えると、より人物像が具体的になります。 * 実施例: * PowerPointまたはGoogle Slidesで、ペルソナごとに1〜2枚のスライドを作成します。 * スライドには、ペルソナ名、顔写真(フリー素材サイトなどで適切なイメージを探す)、基本的なプロフィール、目標、課題、行動パターン、価値観、利用シナリオ、引用などをレイアウトします。 * WordやGoogle Docsでも、表やテキストボックスを活用してペルソナシートを作成できます。 * ビジュアルは、ペルソナに親近感を持たせ、チームメンバーが記憶しやすくするために有効です。複雑なデザインツールを使わずとも、シンプルな画像配置や図形挿入機能で十分です。

ステップ5:チーム内での共有と活用

完成したペルソナをチームメンバーに共有し、プロダクト開発の様々なフェーズで活用します。定期的にペルソナを見直し、最新の情報に基づいて更新することも重要です。 * 実施例: * 作成したスライドやドキュメントをチームの共有フォルダや情報共有ツールにアップロードします。 * チームミーティングでペルソナを紹介し、質疑応答を行います。 * 日々の開発や議論の中で、「〇〇さん(ペルソナ名)ならどうするか」という問いかけを意識的に行います。例えば、新しい機能を検討する際に、その機能が各ペルソナの目標達成にどう貢献するか、課題をどう解決するかを話し合います。 * ペルソナを印刷してオフィスの壁に貼る、オンライン会議の背景に表示するなど、常に目に入るように工夫するのも効果的です。 * プロダクトやユーザーに変化があった場合は、ペルソナの情報源を再確認し、必要に応じてペルソナをアップデートします。

ペルソナを実務でどう活用するか

作成したペルソナは、開発の様々な段階で羅針盤となります。

ペルソナは、単なるドキュメントではなく、チームの共通認識として「生きている」情報となることで、その真価を発揮します。常にペルソナを意識し、議論の中心に据えることが重要です。

ペルソナ作成の注意点

ペルソナ作成を進める上で、いくつか注意しておきたい点があります。

まとめ

UX起点デザインの重要な第一歩であるユーザー理解を深めるために、ペルソナ作成は非常に有効な手法です。特別なデザインツールや専門知識がなくても、本記事でご紹介したように、普段お使いのオフィスソフトや身近な方法を活用することで、十分に実践可能です。

ペルソナを作成し、チームで共有し、日々の開発プロセスで活用することで、ユーザー中心の考え方をチーム全体に浸透させ、よりユーザーに寄り添ったプロダクト開発を進めることができます。

まずは最も重要なユーザー層に焦点を当てて、小さなステップからペルソナ作成に取り組んでみてはいかがでしょうか。そして、ペルソナ作成を通じて得られたユーザー理解を、カスタマージャーニーマップなど他のUX実践手法に繋げていくことで、さらに包括的なUX起点デザインが可能になります。