UX起点デザイン

日常業務で実践するUX課題の発見と整理:ユーザーの声と行動からヒントを得る

Tags: UX課題, フィードバック分析, プロダクト改善, 非デザイナー向け, ユーザーリサーチ

プロダクト開発において、ユーザーにとってより良い体験を提供することは非常に重要です。しかし、専門的なUXリサーチの知識やツールがない場合、どこからユーザーの真の課題を見つけ出せば良いか分からないと感じる方もいるかもしれません。

本記事では、日々の業務の中で自然と集まる情報、例えばユーザーからのフィードバックや問い合わせ、同僚からの情報などを活用して、プロダクトのUX課題を発見し、整理するための具体的なステップをご紹介します。特別なツールは必要ありません。普段お使いのオフィスツールやメモ帳で実践できる方法を中心にお伝えします。

なぜ日常の情報源からUX課題を見つけるのか

体系的なユーザーリサーチは、ユーザーの深い理解や潜在的なニーズの発見に非常に有効です。しかし、常に大規模な調査を実施できるわけではありません。

一方で、プロダクトを運用していると、ユーザーからの直接的なフィードバック、サポートへの問い合わせ、営業担当者からの情報共有、SNSでのコメント、レビューサイトへの書き込みなど、様々な形でユーザーの声や行動に関する情報が入ってきます。

これらの情報は、しばしば特定の機能に関する不満や、期待通りの操作ができなかったこと、あるいはもっとこうだったら良いのに、といったユーザーの「困りごと」や「願望」を含んでいます。これらを単なる要望リストとして消化するのではなく、UX上の課題として捉え直し、整理することで、プロダクト改善の貴重なヒントとすることができます。

日々の業務の中でこれらの情報に目を向け、意識的に収集・整理する習慣をつけることが、UX起点のデザイン思考を実践するための第一歩となります。

日常業務でUX課題を発見・整理するステップ

ここでは、特別なツールを使わずに、日常業務で得られる情報からUX課題を発見・整理するための具体的なステップを説明します。

ステップ1:情報源を特定し、情報を集める

まず、どのような情報源が利用できるかを確認します。 * ユーザーからの直接的なフィードバック(問い合わせフォーム、メールなど) * カスタマーサポートへの問い合わせ履歴 * 営業担当者やカスタマーサクセス担当者からのヒアリング内容や報告 * アプリストアやレビューサイトのコメント * SNSでのプロダクトに関する言及 * 社内のSlackやチャットツールでのユーザーに関する会話 * 自身や同僚がプロダクトを実際に使用した際の気づきや「詰まった」経験 * プロダクトの利用データ(もしアクセス可能であれば、特定の機能の利用率が低い、離脱が多いページの特定など)

これらの情報源から、ユーザーがプロダクトを使っていて「困ったこと」「迷ったこと」「できなかったこと」「もっとこうなったら良いのにと思ったこと」など、具体的なエピソードや声を集めます。可能であれば、いつ、誰が(どのようなユーザーが)、どのような状況で、何に困ったのか、といった背景情報も一緒に記録すると良いでしょう。

ステップ2:「ユーザーの困りごと」として具体的に記述する

集めた情報を、単なる「〜機能が使いにくい」「〜機能を追加してほしい」といった要望や感想のレベルで終わらせず、「ユーザーの具体的な困りごと」として記述し直します。

例えば、「A機能が使いにくい」というフィードバックがあった場合、それが「ユーザーがA機能でBという操作をしようとしたが、どこをクリックすれば良いか分からず、操作を完了できなかった」といった具体的な困りごととして記述します。

この時、「誰が」「どのような状況で」「何をしようとして」「何に困ったか(どうなれなかったか)」という形式で記述することを意識すると、状況がより明確になります。これはアジャイル開発などで使われるユーザーストーリーの形式に似ていますが、ここでは「困りごと」に焦点を当てます。

(例) * (誰が)新規ユーザーが(どのような状況で)初めてアカウント登録する際に(何をしようとして)プロフィール画像を設定しようとしたが(何に困ったか)画像アップロードのボタンが見つけられず、設定を諦めた。 * (誰が)既存ユーザーが(どのような状況で)スマートフォンでプロダクトを利用中に(何をしようとして)特定のデータを編集しようとしたが(何に困ったか)入力フォームが小さすぎて誤入力を連発し、作業を中断した。

このように具体的に記述することで、表面的な要望の裏にある、ユーザーが体験している具体的な問題が見えてきます。

ステップ3:困りごとの背景にある「真の課題」を探る

具体的に記述された「ユーザーの困りごと」に対して、「なぜその困りごとが起きるのだろうか?」と問いを立て、その背景にある根本的な課題を探ります。

例えば、先ほどの「プロフィール画像アップロードボタンが見つけられない」という困りごとに対して、「なぜ見つけられないのか?」と考えます。 * ボタンのデザインが目立たないのか? * ボタンのラベルが分かりにくいのか? * ボタンの配置場所がユーザーの一般的なメンタルモデルと異なるのか? * そもそも画像設定のステップがチュートリアルなどで案内されていないのか?

このように、複数の可能性を考え、困りごとを引き起こしている原因や、プロダクト側の問題点を深掘りします。これが、ユーザー体験上の「課題」となります。一つの困りごとが、複数のUX課題に繋がることもあります。

ステップ4:課題を整理・可視化する

発見したUX課題を、スプレッドシートなどのツールを使って一覧化し、整理します。以下の項目で管理すると、後々チームでの共有や優先順位付けがしやすくなります。

スプレッドシートで管理することで、フィルタリングや並べ替えが可能になり、類似の課題をまとめたり、特定の機能に関する課題だけを抽出したりといった分析が行いやすくなります。

ステップ5:課題の重要度や影響度を簡易的に検討する

整理した課題に対して、その重要度や影響度を簡易的に評価します。これは、どの課題から優先的に解決すべきか判断するための材料となります。

完璧なデータがなくても、集まっている情報から推測できる範囲で構いません。 * どれくらいの頻度で同様の問い合わせやフィードバックがあるか?(発生頻度) * 多くのユーザーが利用する機能に関する課題か?特定の少数ユーザー向けの機能か?(影響を受けるユーザー数) * その課題によって、ユーザーがプロダクトの重要な目的を達成できなくなるか?(重要度/ビジネスへの影響)

これらの観点から、「多くのユーザーが頻繁に困っている重要な課題」や、「特定の少数ユーザーだが、彼らにとっては非常に重要な課題」などを特定します。これにより、限られたリソースの中で、効果的な改善活動から着手するためのヒントが得られます。

開発チームへの共有と次のステップ

整理・検討したUX課題は、開発チームや関係者に共有しましょう。一方的に課題リストを渡すのではなく、「このようなユーザーの困りごとがあり、その背景にはこのような課題がありそうです」と、ユーザーの視点と具体的なエピソードを交えて伝えることで、共感を得やすくなります。ステップ2で記述した「ユーザーの困りごと」の形式は、チームがユーザー視点で課題を理解するのに役立ちます。

すべての課題にすぐに対応することは難しいかもしれません。ステップ5で簡易的に検討した重要度や影響度、あるいは開発チームと話し合いながら、どの課題から取り組むかを決定します。

また、課題が発見されたら終わりではなく、解決策のアイデア検討やプロトタイピング、ユーザーテストといった、デザイン思考の次のステップへと繋げていくことが重要です。日常業務で得られる情報からの課題発見は、これらの活動をスタートさせるための強力なトリガーとなります。

まとめ

専門的なツールや知識がなくても、日々の業務の中で自然と集まるユーザーの声や行動に関する情報から、プロダクトのUX課題を発見し、整理することは十分に可能です。

本記事でご紹介したステップは、以下の通りです。

  1. 情報源を特定し、情報を集める
  2. 「ユーザーの困りごと」として具体的に記述する
  3. 困りごとの背景にある「真の課題」を探る
  4. 課題を整理・可視化する(スプレッドシートなどを活用)
  5. 課題の重要度や影響度を簡易的に検討する

これらのステップを実践することで、ユーザーの視点を日々の業務に取り入れ、データに基づいた(あるいはデータに裏付けられた)課題特定とプロダクト改善のサイクルを回すことが可能になります。まずは身近な情報源から、小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。