非デザイナーのための競合UX分析:プロダクト改善に繋がる実践ステップ
はじめに
プロダクト開発において、競合サービスを分析することは一般的です。しかし、多くの場合、機能比較や価格競争に焦点が当てられがちです。ここで重要になるのが、UX(ユーザー体験)の視点を取り入れた競合分析です。ユーザーが競合サービスでどのような体験をしているのかを深く理解することは、自社プロダクトの真の強みや改善すべき点を見つける上で非常に有効です。
本記事では、特別なデザインツールや専門知識を持たないプロダクト開発担当者の方が、オフィスツールを活用してUX視点での競合分析を行い、プロダクト改善に繋げるための具体的なステップをご紹介します。
なぜUX視点での競合分析が必要か
機能や価格といった表面的な比較だけでは、ユーザーがなぜ特定のサービスを選ぶのか、その本質的な理由を見落とす可能性があります。UX視点での競合分析では、ユーザーがサービスの利用を通じて感じる感情、使いやすさ、課題解決の度合いなど、より包括的な体験に焦点を当てます。
これにより、単なる機能の有無だけでなく、ユーザーが本当に価値を感じているポイントや、競合サービスが提供している体験の質を理解できます。この深い理解は、自社プロダクトの改善点や差別化ポイントを明確にし、よりユーザーに選ばれるプロダクト開発に繋がります。
競合UX分析の具体的な実践ステップ
ここでは、一般的なオフィスツール(スプレッドシート、ドキュメント、プレゼンテーションツールなど)を使って実践できる競合UX分析のステップを解説します。
ステップ1:分析対象の競合を選定する
まず、分析すべき競合サービスを選びます。自社プロダクトの主要な競合はもちろんですが、直接的な競合でなくても、ユーザーが同じ課題を解決するために利用している可能性のある代替サービスや、特定の機能や体験において優れていると評判のサービスなども対象に含めることを検討します。
選定する際は、以下の点を考慮すると良いでしょう。
- 自社プロダクトがターゲットとするユーザー層が実際に利用しているか
- 特定の体験や機能において参考にすべき点があるか
- 市場シェアが大きい、または急速に成長しているか
数が多い場合は、最初は主要な3〜5サービス程度に絞るのが現実的です。
ステップ2:分析観点(チェックリスト)を設計する
次に、どのようなUXの側面を分析するか、観点を明確にします。これにより、分析の漏れを防ぎ、サービス間で比較しやすいように情報を整理できます。オフィスツールのドキュメント機能などを使って、チェックリスト形式で観点を洗い出します。
具体的な分析観点の例:
- オンボーディング体験:
- サインアップ/ログインのしやすさ
- 初期設定やチュートリアルの分かりやすさ
- サービスの利用開始までのスムーズさ
- 主要なユーザーフロー:
- サービスの中核となるタスク(例: 購入、情報検索、データ入力など)の実行ステップ数や分かりやすさ
- エラー発生時のリカバリーのしやすさ
- 情報へのアクセス性(ナビゲーション、検索機能など)
- インターフェース(UI):
- 視覚的な一貫性、デザインの品質
- 要素の配置や操作の直感性
- 読みやすさ(フォント、配色など)
- コンテンツ:
- 提供される情報の質と量
- コピーライティングの分かりやすさ、トーン&マナー
- ヘルプやサポートコンテンツの充実度
- 特定機能の体験:
- 自社プロダクトにとって重要な特定の機能について、競合がどのような体験を提供しているか
- 付随する体験:
- カスタマーサポートへの問い合わせやすさ、対応スピード
- 料金体系の分かりやすさ
- 通知やコミュニケーションの方法
これらの観点を、自社プロダクトの特性や課題に合わせて調整し、詳細化します。
ステップ3:情報を収集し、体験を記録する
選定した競合サービスを実際に利用し、設計した分析観点に沿って情報を収集します。この段階では、主観的な印象だけでなく、客観的な事実や操作手順を詳細に記録することが重要です。
- 実際にサービスを利用する: ターゲットユーザーになりきって、主要なタスクを体験します。可能であれば、様々なデバイスや環境で試します。
- 画面キャプチャや動画を記録する: 印象的だった画面、分かりにくかった画面、特徴的なフローなどを記録しておくと、後で見返したり、チームに共有したりする際に役立ちます。
- レビューや評判を確認する: アプリストアのレビュー、SNS、ブログ記事、比較サイトなどで、実際のユーザーの声を集めます。ユーザーがどのような点に満足し、どのような点に不満を感じているかを知るヒントになります。
- ヘルプページやFAQを確認する: サポート体制や、ユーザーが疑問に思いやすい点を把握できます。
収集した情報は、後で整理しやすいように、オフィスツールのドキュメントなどにメモしておきます。
ステップ4:収集した情報を整理・分析する
収集した情報を、ステップ2で設計した分析観点に沿って整理します。スプレッドシートを使うと、競合サービスごとに観点別の評価や発見した内容を一覧化できて便利です。
| 分析観点 | 競合A(発見したこと) | 競合B(発見したこと) | 競合C(発見したこと) | 自社プロダクトと比較して(示唆) | | :----------------------- | :------------------------------------------------------ | :------------------------------------------------------ | :------------------------------------------------------ | :----------------------------------------------------------------------------------------------- | | オンボーディング体験 | サインアップがメールアドレスのみで完了し非常にスムーズ | 初期設定で多くの情報を求められ、完了まで時間がかかる | 丁寧なチュートリアル動画があるが、スキップが分かりにくい | 自社は登録ステップが多い。競合Aのスムーズさを参考にできないか。動画チュートリアルも検討の価値あり。 | | 主要なユーザーフロー(購入) | 商品検索から購入完了まで最短3ステップ。分かりやすいUI。 | カート機能がなく、都度購入が必要で手間がかかる。 | 類似商品の比較機能が充実しており、選びやすい。 | 購入フローのステップ数を削減できないか。比較機能は自社にはない強み。導入検討が必要か。 | | ヘルプ/サポート | ヘルプページが充実しているが、検索機能が弱い。 | チャットサポートが24時間対応しており非常に便利。 | 電話サポートのみで、対応時間が限られている。 | 競合Bのようなリアルタイムサポートはユーザー満足度を高めそう。すぐに難しくても、FAQ改善は可能。 |
このように、発見した事実を記述し、それを踏まえて自社プロダクトの現状と比較し、どのような示唆が得られるかを書き出していきます。
分析の際には、単に「良い」「悪い」だけでなく、なぜそう感じるのか、具体的な根拠(画面、操作、ユーザーの声など)を添えるようにします。
ステップ5:インサイトを特定し、プロダクト課題へ繋げる
整理した情報から、特に注目すべき「インサイト(示唆)」を見つけ出します。これは、競合サービスから学べること、自社プロダクトの改善に繋がる具体的なヒントとなるものです。
例えば、
- 競合Aのオンボーディングが非常にスムーズなのは、入力項目が極限まで絞られているためである。→ 自社プロダクトの登録ステップを見直し、不要な項目を削減できないか。
- 競合Cの比較機能を使うことで、ユーザーは迷いなく商品を選べているようだ。→ 自社プロダクトにも比較機能があれば、ユーザーの購入決定を後押しできるのではないか。
- 多くの競合サービスのレビューで、カスタマーサポートの対応速度が評価されている。→ サポート体制の強化は、ユーザー体験全体を向上させる上で重要である。
これらのインサイトを基に、自社プロダクトの具体的な課題として定義します。課題は、ユーザーの視点から「〜なために、〜できない/困っている」といった形で記述すると、チームで共有しやすくなります。
例:「登録ステップが複雑なために、ユーザーは利用開始前に離脱してしまう」
ステップ6:分析結果を共有し、プロダクト改善に活用する
特定したインサイトとプロダクト課題を、開発チームや関係者に共有します。プレゼンテーションツールやドキュメントを使って、分析の目的、プロセス、主要な発見、そしてそこから導き出された自社プロダクトの課題と改善提案を分かりやすく伝えます。
この際、単なる機能比較表を見せるのではなく、実際に競合サービスを利用した際のユーザー体験がどのようなものだったか、画面キャプチャや簡単なデモを交えながら「ストーリー」として語ると、チームメンバーがより深く理解し、共感しやすくなります。
共有されたインサイトと課題は、プロダクトの優先順位付けや改善策の検討に役立てられます。すぐに大規模な改修が難しくても、小さな改善から始める、A/Bテストで検証するなど、様々な方法で活用できます。
オフィスツール活用のヒント
- スプレッドシート: 競合ごとの機能比較、分析観点別の評価、発見したインサイトのリスト化に最適です。フィルター機能や条件付き書式を使うと、特定の情報を見つけやすくできます。
- ドキュメント: 分析の目的、調査方法、詳細な発見事項、インサイト、プロダクト課題などを構造的に記述し、レポートとしてまとめるのに適しています。
- プレゼンテーションツール: 分析結果をチームに共有する際に、視覚的に分かりやすく伝えるために使います。主要な発見、インサイト、推奨事項などをスライドにまとめ、画面キャプチャや簡単な図を効果的に配置します。
これらのツールを組み合わせることで、特別なツールがなくても十分な競合UX分析が可能です。
実務での注意点
- 完璧を目指さない: 全ての競合サービスを網羅的に分析することは現実的ではありません。まずは主要な競合や、特定の課題解決に役立つ競合に絞って深く分析することから始めます。
- 継続的に行う: 競合サービスも常に変化しています。一度分析したら終わりではなく、定期的に(例:四半期ごとなど)主要な競合の動向をチェックし、分析をアップデートすることが重要です。
- 主観に偏りすぎない: 自身の体験は重要ですが、それが全てのユーザーに当てはまるわけではありません。可能であれば複数の担当者で分析を行ったり、ユーザーレビューなど客観的な情報も参考にしたりして、分析結果の信頼性を高めます。
- 目的意識を持つ: 何のために競合UX分析を行うのか(例:オンボーディングの課題を解決したい、特定機能の利用率を高めたいなど)、具体的な目的を明確にして取り組むと、分析の焦点が定まりやすくなります。
まとめ
UX視点での競合分析は、自社プロダクトの改善点を見つけ、ユーザーに選ばれるプロダクトを開発するための強力なアプローチです。特別なデザインツールがなくても、身近なオフィスツールを活用することで、この分析を実践できます。
本記事で紹介したステップ(競合選定、観点設計、情報収集、整理・分析、インサイト特定、共有・活用)を参考に、ぜひ皆さんのプロダクト開発にUX視点での競合分析を取り入れてみてください。競合サービスから学びを得て、ユーザーにとってより良い体験を提供できるプロダクトへと成長させていきましょう。